トリュフ1900万円」報道の品格 [情報、ビジネス]
下記は、日経ビジネスON-Lineの「ニュースを切る」というコラムからの転載です。
日本の報道は、NHKも含め、表層的かつ興味本位のレベルが低いということを示す好例です。
トリュフ1900万円」報道の品格
なぜか日本では報じられなかった巨額落札の最終目的
2006年11月21日 火曜日 北村 豊
香港の実業家が、約1900万円もの高値でトリュフを落札──。
先週、こんなニュースが流れた。このニュースを見聞きした日本人の中には、羨望のまなざしを投げかけながらも、「中国の美食家がカネにものを言わせて贅の限りを尽くしているのか。なんて品がないんだ」と感じた人が少なくないのではないだろうか。だが、実態はちょっと違う。
日本の庶民にはチョコレートの方が馴染み深い…
本題に入る前に復習しておくと、11月14日付のNHKニュースは「高級食材として有名なトリュフのオークションが、11月12日に名産地として世界的に知られるイタリアのピエモンテ州で開かれ、3つ合わせた重さが1.5キログラムもあるトリュフが、香港の実業家により12万5000ユーロ、日本円にしてなんと、およそ1900万円で落札された」と報じた。
また、翌15日の時事通信は、巨大なトリュフの写真付きで「香港で14日、報道陣に披露されたのは1.5キログラムのアルバ産の白トリュフ。トリュフの中でも最高級といわれるこの逸品は、ある香港人が史上最高値の12万5000ユーロ(約1900万円)で落札した」という記事を配信している。
復習ついでに触れておくと、トリュフとはキャビア、フォアグラと並ぶ世界3大珍味の1つ。これらは、いずれも養殖や人工栽培によって増産が図られているが、天然物の希少性で考えると最も価値が高いのはトリュフである。
日本名では「西洋松露」、セイヨウショウロ科セイヨウショウロ属のキノコの総称であり、フランス語でTruffe、英語ではTruffle。我々庶民にとっては、トリュフの形状を模して作られた同名のチョコレート菓子の方が馴染み深い。
最近は日本でも発見されて話題になっている。珍味中の珍味と言われているものは、「黒いダイヤモンド」と呼ばれるフランス産の黒トリュフ、「白い黄金」と呼ばれるイタリア産の白トリュフである。
巨額落札したのは実業家ゴードン・ウー氏
さて、本題である。1900万円で落札した香港人とは誰なのか。
それは、複合企業であるホープウェル・ホールディング(合和実業有限公司)の胡應湘(ゴードン・ウー)会長とその妻の郭秀萍である。
ホープウェルはゴードン・ウー氏が1代で築き上げた企業グループで、不動産開発、発電所や高速道路への投資、ホテル経営が事業の主体。中国国内でのビジネスに主眼を置いており、日本企業との関係も深い。ゴードン・ウー氏は、中国人民政治協商会議全国委員会香港地区委員でもあり、香港が英領だった時代に英国政府から爵士(ナイト)の称号を授与されている人物である。
日本でほとんど報道されなかったのは、その目的である。それは大金持ちの個人的で、驕奢な道楽などではなく(そういう面もあるかもしれないが)、慈善事業の一環だったのである。
香港の名門ホテルである「リッツカールトン」(麗嘉酒店)がゴードン・ウー氏の代理としてオークションに参加し、落札した白トリュフは香港に運ばれ、リッツカールトンに展示。その後、同ホテルのイタリアンレストランで調理されてチャリティー・ディナーに供されたのである。ゴードン・ウー氏の親しい友人など数十人が招待されたという。
チャリティー・ディナーの収益金を慈善団体に寄付
この慈善晩餐会で集められた収益金は、香港の慈善団体「母親の選択」に寄付されることになっている。予期せぬ妊娠をした女性や特殊な境遇の児童を支援している組織である。
英国人フージワーフによる「2006年中国慈善企業ランキング」では、ホープウェルは献金額2000万元(約3億円)で第37位にランクされている。ゴードン・ウー氏は、企業としてだけでなく、個人としても積極的に慈善事業に献金を行っているようだ。ちなみに、日本企業ではトヨタ自動車が献金額2100万元(約3億1500万円)で第35位につけている。
今回は第8回国際白トリュフオークションだが、昨年11月に開催された第7回でも香港人が1.2キログラムの白トリュフを9万5000ユーロ(約1300万円)で落札していた。香港の実業家で慈善家としても有名だった何東(1862〜1956年)の孫娘で、香港社交界の著名人である何美雲である。やはり、リッツカールトンでの慈善晩餐会で食されている。
大金持ちだからこそトリュフに1000万円単位のお金を払おうという気にもなるわけだが、「物好きな金持ちが、食道楽で一時の美味を味わうために有り余る金を浪費している」というのではない。ここの部分が、日本での報道からは抜け落ちていて、単なる興味本位で扱われていたように思う。香港の現地新聞では詳細が報道されている。
贅の限りを尽くしているのは、むしろ日本人の方
天下泰平の繁栄に酔い、贅の限りを尽くしているのは、むしろ平均的な日本人の方であろう。「格差社会」うんぬんをしかめっ面をしながら論じる一方で、世界のブランド品売り上げの40%を占め、庶民が「ボジョレー・ヌーボ」に熱狂する奇妙な国、日本──。トリュフの値段ばかりに関心が集まり、慈善事業の話がばっさりと抜け落ちてしまうのは当然なのかもしれない。
だが、中国の慈善家の行いと日本での報道との間のギャップはあまりにも大きい。どうも、そういうことが“一事が万事”になっているような気がする。日本のメディアの品格が問われてしかるべきである。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20061120/114065/







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